金翅鳥院のブログ

天台寺門宗非法人の祈祷寺院です。

小説 呪師

小説「呪師」を書き終わって”2

お読みいただいていたた方の感想で意外だったの忌部久光が真犯人と思っていた人が意外と多いということ。 確かに忌部久光はいささか怪しく書いてある。 飯辺を忌部と名乗るとか。ことがすんだら深追いするなとか言うあたりとか。 だがその程度のウソは当時は…

小説「呪師」を書き終えて

こう言うものを書くと魔はよってくるものだ。 此の一連の執筆中体調は悪く、きわめてしんどかったので早く書いてしまいたいと思っていた。 寝ていても話の続きが勝手に頭の中でグルグル展開して寝れたものではない。 書かないと苦しいので夜中に起きて書いて…

小説「呪師」其の弐拾六  最終話

命婦の髪の毛をさっそく、久光に届けた。 「首尾は」「うまく行きました。」 「これに」半紙にくるんだ髪の毛一筋をわたした。 久光は奥の部屋に一尺三寸(45センチ)ほどもある藁人形を用意していた。 命婦の髪の毛を藁人形にしのばせると、人形の上に日の丸…

小説「呪師」其の弐拾伍

新右衛門はその翌日、「百足大権現」にいた。 その日は雨で鑑定の客足は空いていた。初冬の雨は冷たい。 だが新右衛門の心は怒りで燃えていた。 入り口でカエデが「お名前をどうぞ」 「千住から来た松山佐内と申す。」とあらかじめ考えた偽名を語った。 「お…

小説「呪師」其の弐拾四

新右衛門は小助の髻をつかむとぶつりと切った。 「これでお主はもう死んだ。たった今わたしが切った。さあ、故郷の平塚にいね。」 「岩間さま!」 「もうよい、故郷の平塚には三日も歩けば帰れよう。これは少ないが路銀にせよ。」と財布もそのままにわたした…

小説「呪師」其の弐拾参

新右衛門はやれやれと思って、まずは小助の行きつけらしい居酒屋を同じ中間の善太からの勧めもあり探ることにした。 すると何軒かあたっているうちに、「お侍さん、お侍さんは辻井様のご家来ではございませんか?」と声をかける男があった。 「いかにもそう…

小説「呪師」其の弐拾弐

ぶじに光明供を終えるや小助の病は数日で回復した。 同時に辻井家にとってはやはり小助の病は猫の祟りという決着になってしまった。 小助が本復してから二日ほど後、陰陽師・忌部久光がやってきた。 「ご当家から御用の方がお出でだと隣家から聞きまして、さ…

小説「呪師」其の弐拾壱

だが華蔵院ではその後日談がまだあった。 泰岳が自室で行李から供養次第を出して眺めていたところである。 勿論辻井家の猫供養のためであった。 「泰岳、少しよいかな。」と声がしてふすまが開き僧正が入ってきた。 「そなたは今回の件は何をもって祈るかの…

小説「呪師」其の弐拾

さて。屋敷に還ると猫を川流しにいかせた小助という下男が寝込んでいた。 これはどうも久光の心配していたように川流しの際にしくじったか?と新右衛門は思った。 中間(ちゅうげん)部屋にいき小助を見舞うと、真っ赤な顔で唸っている。 声をかけても返事すら…

小説「呪師」其の拾九

ヤモリの荒っぽいが手際のよい呪術を目の当たりにした一同は驚いた。 同時に忌部久光の術は本当に聞いていたのか?という疑問も起きてきた。 田島に至っては自分の出したお金でもないのに「五両も出したのに」とさかんにぼやいた。 こののち、辻井の病状もよ…

小説「呪師」其の拾八

朦々とマタタビを焚く煙に猫はどんどん集まりだした。 江戸の町に猫は多い。 五代将軍綱吉の「生類憐みの令」が発せられてより、京都と江戸市中には猫を放し飼いにすべしとの推奨令が出ていたからだ。 瞬く間に三十匹前後が集まった。 「おい、お侍。ちいさ…

小説「呪師」其の拾七

数日後、田島は「忌部久光。さすが有名な陰陽師だけあるが、五両とはな。 恐れ入ったものだ。華蔵院の僧正様なら大護摩焚いても一両とはかかりませんわなあ。」と笑った。 「まあなあ。でも、あれから姫もおかしなそぶりはない。殿も最近は床を離れる時間が…

小説「呪師」其の拾六

「これは門の内側からさしてある。」 新右衛門はまじまじと人型を見た。 「どう思われる?」と光久は顔をのぞきこんで来た。 「さあ・・・」新右衛門は目をそらした。 「内部の者か、出入りの者でなければこうはいきますまい。」 …確かに。それはそうかもし…

小説「呪師」其の拾伍

本所深川の忌部久光の名は陰陽師を探せば耳に入る名前の一つだった。 光久は下総の出で忌部氏の末流という。 忌部は太古において祭祀に関わる一切を受けもつ一族でアメノフトタマノミコトを祖神とすると伝えられる。 千葉に淵源があるという一族だ。 だが光…

小説「呪師」其の拾四

そして急に「田島殿、帰ろう。もうよい。」等耳打ちした。 田島は納得いかない風であったが新右衛門に促されてそれ以上はなにもいわなかった。 するとヤモリが言った。 「そうれ、気が付きなすった。そっちの旦那はわかったんだろ?}と。 「僧正様、大変ご…

小説「呪師」其の拾参

「そなた どうしてそれを知っているのです?僧正様から聞いたのですか」 「誰にも聞かねえ、知っているわけじゃねえ。」 「わかるだけだ。」 「わかる?」 新右衛門が聞いた。「じゃあ、なぜわかる?」 ヤモリは「わかるからわかるんだ。理由はねえ。」 「で…

小説「呪師」其の拾弐

新右衛門の眼から見ても、もうヨネはあきらめなければなるまいと思った。ヨネの怯え切った眼がそれを語っていた。 ここに至って、新右衛門は話ついでで帰路、華蔵院の「ヤモリ」の話をシズノにした。 「華蔵院の僧正がそのようなことを・・・」 「しかし、そ…

小説「呪師」其の拾壱

新右衛門は屋敷に帰ってもヤモリの話しはしなかった。 彼の押しはヨネだからである。 だがやはり、僧正の言うようになにか目利きがするものが居た方が良いと思うようになった。 思いきってヨネを女中に推挙しようと思ったが、「待てよ。逆に菊さまがもう治っ…

小説「呪師」其の拾

さて、新右衛門はまた翌日、華蔵院に「本復した故、護摩はいらない」という使者に立った。 新右衛門は僧正が快諾してくれただけに護摩祈祷と断るのは気が重かったが、僧正はそれを聞くと「わかりました。」とだけ言った。 丁寧に礼を申し上げて座を立つにあ…

小説「呪師」其の九

「それはわかりません。・・・だが、やってみる価値はありましょう。」 「護摩には菊様を伴いますか。」 「来られるならそれが一番いいが、おそらく見えますまい。 ただ、真言秘密の法というのは距離は関係ないのです。そこにいようといまいと。」 田島が「…

小説「呪師」其の八

辻井はまたも迷いだした。 「治ったのでは…」と思いたいのだ。 しかし、シズノは「いいえ、華蔵寺へ参って、念のために話だけでも聞いていただくべきです。」と強く主張した。 この時は辻井家の用人である堀田十兵衛なる者も奥方とともに辻井の後を押した。 …

小説「呪師」其の七

ただ、魔を払うに長じた修験者や陰陽師など探してこいと言われても元よりそのような知り合いもなく当ても、まるでない。 新右衛門にとって、これらはついこの間まではまるで無縁の世界であった。 衝動的に言われたのかもしれないが、考えてみれば殿も随分と…

小説「呪師」其の六

新右衛門と田島が辻井家に還り、翌朝ことの次第を主計に話すと、主計は案の定、大いに落胆した。そして大きなため息をつき、がっくりと首を垂れたまま、短く「ご苦労だった。下がって休め」とだけ言った。 菊姫はというと、相変わらずぶつぶつ何か言うだけで…

小説「呪師」其の五

「菊さまは病気じゃなかったのか。あの狂態が芝居だったとは・・・ああ!」 田島はもうそう早合点して頭を抱えていた。 「いいえ!お芝居でもありますまい」 ヨネが遮った。話には続きがあった。 はじめはあたかもすすり泣いていたように見えた菊であったが…

小説 「呪師」其の四

だがこの報告に辻井主計はたいそう喜んだ。 親心から菊が快方に向かった。いや、治ってしまったと思ったのである。 そうなればもう物狂い、乱心だろうが憑き物だろうが、そこはもうどうでもいいのだ。治ればいらぬ詮索である。 始めは何日預けることになるの…

小説「呪師」其の三

「そもそも憑き物などと言うこと自体、ありえないでしょう。」 新右衛門はよくわからないが、先ほどの狐狸の類がそのような神通があるなら、たやすく人日は討たれまいという禅尼の言葉には、「なるほど」と少し説得力を感じていた。 「では物狂い?」 「わか…

小説「呪師」其の二

主計は物狂いになった旗本 大沼家の長男を思い出していた。もう、十年も患っていていまだになおらない。一見普通だが突然訳の分からぬことを言うので城勤めは叶わないで三十にもなるが家で過ごしていると聞いた。 「物狂い」は文字通り精神疾患の総称だが、…

小説 「呪師」其の一

紅蓮寺さんが小説を載せられていたので、私も少し書いてみました。まあ、気まぐれでやめるかもしれないが第一回です 岩間新右衛門は旗本辻井家の家人であった。 新右衛門は今、旧六月夏の炎天下、江戸の町を当てもなく歩いてもう三刻以上にもなる。 風もなく…