金翅鳥院のブログ

天台寺門宗非法人の祈祷寺院です。

林先生と弁才天、そして白浄水金剛神

八大金剛は金剛経の冒頭にでてくる八人の執金剛神です。
金剛経と云えば私の場合は濱地天松先生ですが、天松先生の弟子の林天朗居士とは直接親交がありました。
そして林先生は当院の初代信徒総代をこころよく引き受けてくださった方でもありました。
私は林先生とは池上の弁天堂で金剛経の提唱をされているということで伺ってはじめてお目にかかりました。
当時は聖天信仰をしていましたが常とはまるきり逆で聖天信仰してからどうにも苦難続きで、内心もう聖天様信仰はやめようと打開策として、私は聖天信仰のいっぽうでこの池上の弁才天のお参りをしていたのでした。
今から考えると業の洗い出しがもう最初から始まっていたんだと解釈しています。今に思えばそれが無ければ今日も無かったでしょう。
私は行者にはならず、ただの欲願三昧の聖天信者だったかもしれません。
余りにしんどいので苦し紛れの弁天信仰でした。
十四日の巳の日生まれで蛇が海にたたずんでいるのを夢見て母が私を生んだと聞いていたので私は以前から弁財天や龍神にとても親しみがあったのです。
巳の日は弁天さんのお縁日で十四日は関西では弁財天のお待夜です。
池上の弁天堂にはお坊さんもいません、御堂と小さな庫裏だけです。
横の部屋で駒形さんと云うおばあ様が番をされていて、それは、それは、まるで宇賀神様そっくりのとても色の白い神秘的な感じさえする方でした。
駒形さんの御話ではこの弁天様は昔は随分流行っていたけど弁天様自体が派手なことがお嫌いで、そういおうお告げがあり祭礼などはなくなったのだそうです。
脇に童子が一人いて「親子辨天」と呼ばれて親しまれていました。
(今は御堂もなくなり、お像の所在も判りません・・・)
そして駒形さんから林先生の金剛経の提唱があることを聞いたのです。

お会いして話をしますとなんと林先生もそして師の天松居士も大井町の聖天様のことをよく知っていて、とりわけ天松居士は藤本僧正の頃に金剛経の講義にもよくいかれたそうです。また林先生は大井聖天の信徒総代の加藤氏とも旧知のなかでした。
それを聞いて私は「ああ、やっぱり聖天様からは逃げられないのだな。」と思ったものです。
林先生は「聖天信仰は欲願ばかりで最後には失敗する人が多いので気を付けてください。」といってさらに金光明最勝王経の大吉祥天女品に「一人己身のためにすべからず」の文言や観音経の中のお話しで「観音様は八部衆の献じた瓔珞を多宝搭と釈迦牟尼仏に献じてしまい、何も手元にはないでしょう。人は何かをいつまでも握っていては何も手に取れません」というお話をされたのでした。
さらに興味深いのは弁才天というときはこれは最勝王経の弁天様,弁財天というときは吉祥天なのだという天松居士の口伝を話されました。

天松居士は最勝王経の守護神として弁才天を深く信仰しました。金剛経法華経、最勝王経の三経で一体の信仰があったからです。
天松居士の弁才天は二臂の彩色像でした。おそらく江戸時代のものでしょう。むしろ宇賀神と言って良いかもしれません。
天松居士は九州で龍が松に昇る夢を観て天松と号し、もっぱら政治犯の弁護士でしたので弁舌の神、弁才天を祀って守護神としていました。
このことも林先生の宇賀神信仰に繋がっています。
そして林先生は皮革工芸の道を選んだ芸術家でしたので美術的意味から弁財天を祀っていました。
勿論、絵も能くする人で知る人ぞ知る上田光光聖のはじめた「不思議聖天宮」の聖天、弁天、荼吉尼天三尊の御影を描いたのはこの林先生です。
また林先生は一種霊覚のある人で空中に点や図形が現れそれでいかなる神仏の感応であるのかを悟るのでした。嵐の日に金面竜王(天松居士は竜を彫った純金のボタンを黄面竜王として祀っていました。最勝王経の黄面竜王のことですかね。)がやってきて家を守ってくれた話や弁財天は傍線一本に点が15個左右交互に現れるとか、大祓祝詞の祓戸三神はかまぼこ型三つとか面白いお話を伺いました。
一種の三昧耶形でしょうか。

林先生は守護神として「白浄水金剛神」を天松居士から授けられていまし

た。

これが林先生だけなのか。天松居士がこの金剛神がお好きでお弟子方に

授与されていたのかはわかりませんが、この金剛神は「熱悩の苦を除く」と

いうご誓願だそうです。熱悩の苦とは煩悩の苦しみだそうです。

さて八大金剛には各々以下の誓願があります。
「青除災金剛」:能く一切衆生の宿す災殃を除く
「辟毒金剛」:能く一切衆生の熱毒病苦を除く
「黃隨求金剛」:能く一切衆生をして所求を願のごとく皆得せしむる。
「白淨水金剛」:能く一切衆生の熱惱の苦を悉く消除す。
「赤聲金剛」:能く一切衆生を光明で照らし、佛にまみえせしむ
「定除災金剛」:能く一切衆生の三災八難之苦を除く。
「紫賢金剛」:能く一切衆生をして心に悟りを開かせ菩提心を起させ
       る。  
「大神金剛」:能く一切衆生に智牙を成就せしめ,惠力を增具せしめる。

大般若理趣分では十六善神ですが、金剛般若の読誦作法では同じ大般若経ではあるのですが最初にこの八大金剛と四菩薩を呼びます。
執金剛と云うと仁王様のように思いますがわたしの拝見した林先生の白浄水金剛神は裸形ではなく白木彫の武神形の天部のおすがたでした。

写真は八大金剛の内、紫賢金剛と大神金剛の古図