金翅鳥院のブログ

天台寺門宗非法人の祈祷寺院です。

大西先生の事3「おんざき様」


でも大西先生の霊感は修行の末に開いた霊感でした。
生来のものではなかったそうです。
面白いのは生来強いという人は得てしてコントロールがなかなかできない人が多い。

生来の能力だから強いのは強いけどもてあます。
だから霊視しても頓珍漢になる。
商売繁盛の相談にきたのに「あなたは水子さんがありますよね」なんていってしまう。見えたものと相談は関係ないんですけどね。でもそうやってしまう。
だからよく当たるけどよくすることはできない先生になる。
そういう人は多い。うまくコントロールできない。
 
大西先生は霊感獲得のために夫婦生活を絶ったのです。
そう誓って修行したそうです。
霊感が身に着くまで女房と同衾しない。
「こんな殺生なことあるかい?」と奥さんは怒った。
そりゃそうです。だって女房と同衾しないだけでその分、女遊びはしてたらしい。()
そんなこんなで霊感出るまで10年かかったそうです。
だから10年間、奥さんは独り寝。奥さんも修行です。
実際に奥さんもお代さん(霊媒師)だった。

でも先生はそれだけに遊んだ人らしいなかなか粋なこともやった。
ある時気が狂った女性を預かった。
何でも男性と見ると帯といて裸になって抱き着く。
通りにいる男性を見ても裸ですっ飛んでいく。
俗に言う「色情狂」というやつです。
それどうしたかというと、大西先生はなんと、その女性を道後の遊郭に預けてしまった。
遊郭、まだ戦前なのでそういうのがあったんですね。
これには白戸師匠も驚いて、激しく怒った。「お師匠!なんてことするんですか!」
すると大西先生はニヤニヤ笑うばかり「フン、まあ、見ておれ、俺のやることが小僧のお前なんかにわかるもんか」と言っていた。
さて、遊郭に行ってくだんの女性は色情狂だが、仕事なので山ほど男性を相手にした。
そうするうちだんだん飽いてか、正気になってきたそうです。
そうしたらしまいに大阪の大きなメリヤス問屋だかなんだかの旦那が彼女を見初めて見受けした。この人は女房に死なれていたのでこの女性を囲うとかでなく、奥さんにしたんですね。
結果、彼女は大変な玉の輿に乗った。
 
そういうことをしたのが大西先生です。

でもとっても怖い先生でもあった。農村というのはよく、昔から、「争いごと」に田んぼの水争いというのがある。
要するに水の縄張り問題です。
それで大西先生の代理で白戸師匠がその村の話し合いに出た。
それで先生の主張をそのまま言ったら、その中の二人が「お前みたいなものは黙っとれ。」「そうじゃ、餓鬼の分際でなにほざくか。」でおしまいだったそうです。
 
師匠は仕方なく大西先生にその顛末を述べたそうです。
そうしたら「おのれ!わしの代理でいった人間をバカにするのはわしをバカにしているのと同じや!」と激怒した。

激怒しただけで何したわけでもないのに、次の日の朝、「黙ってろ」といったその二人はおぼれ死んだそうです。
それも田んぼのほんに浅い畔の水に首を突っ込んでおぼれて死んだ。酒飲んで酩酊した結果なのかどうかわかりませんがそうだったそうです。
 
もっと恐ろしい話をしましょう。
大西家に息子さんの嫁さんがいた。
その嫁さんが外出するつど、「いつも、いつも家を空けおってからに・・・」と大西先生がぶつぶつ文句言うのに彼女は以前からとっても不満でした。
ある時、その留守に泥棒が入った。
でも何も取らずに逃げたんです。
それで嫁さんはこれは大西先生の嫌がらせと踏んでなじったんですね。なぜなら何も取られてないから。
それで一方的に嫁さんから無実の罪着せられて大西先生ははげしく怒った。
それで先生は得意の霊媒をしたそうです。寄り代は奥さん。
昔ながらの修験の霊媒祈祷は正式には必ず掛け手の行者と霊のかかる寄り代でやるんです。
いわゆる前座と中座です。
それで先生は犯人の生霊を霊媒祈祷で呼びつけたんだそうです。「貴様、盗みに入ってなぜ何も取らなんだ!?」というと犯人の生霊は「いや、もう恐ろしいんですぐに俺は逃げたんだ。」という。
「何が恐ろしかったんや!?」
生霊の言うには「実は盗みに入ったら、どこからともなく恐ろしい爺様が出てきて物凄い目でにらんだんだ。その目の恐ろしい事!それで俺は即逃げた。」
そういうことを話した。
 
師匠の話ではこれは実は大西先生の守護神「おんざき様」だったんだと言うんですね。
「おんざき」はおそらく御先のこと。眷属の謂いでしょうが、
これは高知の物部修験「いざなぎ流」でまつる神様です。
大西先生なんかも「いざなぎ流」をある程度こころえていたんでしょうか。
また後で別な機会にお話ししようと思う田辺辰嶽先生なんかも星周りの悪さを転ずるいざなぎ流由来の「星の盛替え」やなかなか子宝にめぐまれない人にする「コノシロの葬式」という秘儀まで知っていた。
かくいう私の祖父も愛媛の人間ですがいざなぎ流の大夫でした。
祖父も汽車でその都度高知まで習いに行っていたらしい。
恐らくそういう行者はたくさんいたんでしょう。

少しでも奥の法術を知りたい。もっと多くの秘術が欲しいというのが「行者の業」というものです。
 
おそらくこの泥棒は現実には盗みに入って何か急にもの恐ろしい気配に襲われて逃げたんでしょう。
霊媒の世界と現実は少し違う。この泥棒もおそらく現実におんざき様を見てはいないと思う。
霊媒の世界は潜在意識の世界ですから。
ただ急にえもいわれぬ恐怖にとらわれたんではと思う。
意識の上ではそうでも潜在意識では実はおんざき様に出会っていた。
生霊からそこまで聞くと大西先生は霊媒をやめて「よし、本当の犯人あげてやる。」と言ってやおら護摩壇に上り恐ろしい形相で護摩を焚きだしたそうです。
 
そうしたら、ほどなく近所から急にうちの亭主が凄い熱出して倒れたとその女房が祈祷を求めてふっとんできた。
大西先生は「そいつはな、してはならんことしたんじゃ。やってはならんことをしたんじゃ。報いじゃ。助からん。」といってそのまま助けなかった。
そして医者も薬もどうにもならずそのまま、その男性は熱が下がらずにほどなく亡くなってしまったと聞いています。
 
続く