まあ、そういうわけで千日回峰行とは最終的に縁のなかった師匠ですが葉上大行満は何かと可愛がってくれたそうです。
それで難しい御祈祷が来ると「白戸、お前行け。」という。
「いやいや、ダメですよ。お山には拝まれる人いっぱいいるのに私みたいのが出ていくのは場違いです。ご勘弁願います。」というと、
大行満にしてみれば、どんなものかというそういう好奇心もあったのでしょうね。
同時に自分を慕ってくれる行や祈祷が好きなこの若者にひとつ活躍の場を与えてやろうか…という暖かいお心もあったでしょう。
当時、比叡山ではドライブウェイを作っていたそうです。
それが落盤事故などが相次ぎ、どうもうまく運ばない。
何せ霊山の事。
それで工事の人もひどく怖がっていたようです。
それでそこに行って御祈祷して治めよという大行満の御下知でした。
さて、現場に行ってひととおり祈りおわるとどうも気になる箇所がある。
それで「ちょっとそこ。ほってみてください。」と頼むと、ほるほどに人骨らしきものがゴロゴロと、おびただしく出てきたそうです。
これには皆色を失った。
「元亀の法難や・・・」
僧侶は言うにおよばず、女子供、赤子までも別なく殺したという。
ここは山上なのでおそらく山上の宗徒か、坂本から逃げてきた街の人々か…どちらにしても葬るというより、皆殺しにして一か所に埋めただけというような状態。
かくして「南無三宝…」ということでお骨には丁寧に供養がなされ、以後落盤はなくなったそうです。
このことがあってから、ちょっとばかり難しい御祈祷の案件が、ちょいちょい葉上大行満から師匠にもたらされることがあったようです。