金翅鳥院のブログ

天台寺門宗非法人の祈祷寺院です。

生き葬式


当時、そういうことで白戸師匠に「なんとかしろ」と来た話の中にはかなりの難題もありました。
Iさんという大信者がいました。

京都で料亭か何か持っていてよく比叡山にお参りし、ご喜捨も常々なかなかの額をしたようです。
この方がガンになった。

それでなんとかしろという。
こういうことは「日ごろ御祈祷しています」とはいっても十巴一絡げでやってきた経験しかないと難しいもんです。
大寺院でずっと定刻に護摩焚きに出仕してきたなんて言っている方でも個別のこういう案件になると何していいかわからないとかいう話もよくある。

白戸師匠がこの時やったのが「生き葬式」
なんとその人の葬式やってしまう。
経かたびら着せて三角頭巾つけてお棺の中に入ってもらう。勿論、読経もして引導も渡す。
事情が分かれば参列者も呼ぶ。
そうしておいて「ご出棺です」の合図でヤッとばかりに棺を担ぎ上げますが、その棺は底を抜いておく。
つまり中身のIさんは措いていく。
それで棺だけ焼いて荼毘にふす。

そのあとで師匠はIさんに向かって「これでもう貴方の臨終は終わったよ。後はもう死んだんだから、そう思って欲は控えて余生を送りなさい。」といったそうです。
そうして無事病を治したそうです。

原理は一種の逆修作法です。生きているうちに自分の冥福を祈りご供養してしまう。
まあ、でもふつうここまでやらんでしょう。
もし治らずに亡くなれば「あんな縁起の悪い悪ふざけしたから死んだのだ!どうしてくれる。」といわれるリスクは大きい。
だからここまで荒技やれば良くも、悪くも「白戸、あいつかぁ…」ということになる。必ず味方も敵もできるわけです。
そこまででなくても祈祷の道は常にそういうリスクといつも隣り合わせです。だからやりたがらない人も多い。

そういう意味ではよく冗談で「冥府魔道の道」と私なんか言うけどね()

白戸師匠はそういう人間として知られて山でのあだ名は「おばけさん」で。つまり妖怪的な人物とみなされていたようです。

私の兄弟弟子であったK師なんかは、寺門の私と違って山門コースに行き、長いことお山にいましたが。
お山で「お前は白戸一門か!…白戸一門は皆、妖術を使うから怖いなあ。」と言われたそうです。
 
妖怪は誉め言葉、妖怪で上等です!()


 つづく