金翅鳥院のブログ

天台寺門宗非法人の祈祷寺院です。

Nさんの得度

 
白戸師匠が得意だった霊媒祈祷。松山では当たり前でしたが、これも比叡山にはないものでした。
私も含めて霊媒をするのは三人いた。ことに優れた霊媒だった先輩のN師を師匠はよく使っていました。

霊媒祈祷は「阿毘捨法」と言われます。
どこだかの偉い学者先生の仏教辞典には「邪法」と書いてあった。
何も知らないで書いているのだな。この先生はと思った。儀軌にもきちんとあるものを。
ほかにも驚いたのは荼枳尼天をそういう妖術の名前だと思っている人がいてそう辞書に書いていたこと。まあこの人は学者じゃないから、まだしもだけど…。()
 
まあ、そんなことはどうでもいいが、このNさんはもともと大商都、大阪の社長夫人。
生家は新潟で古くは代々お馬の医者「馬医」をした家だったそうですが、嫁ぎ先は代々大阪で商いをして聖天様の信仰があった。

実はこの馬医の因縁から彼女には守護神としてしまいには生家でまつられていた「馬頭観音」までが降臨するようになりますが、それはもう少し先のお話です。
 
そのNさんが大井聖天の近所に引っ越してきたのでよく聖天さまということでお参りしていたんです。
「どうぞあがってお参りを」といっても「ええ、私どもはここでいいんです。」と言って勧められても頑なに本堂にはあがらなかった。一刻者のNさんらしい。

それがある日のこと、頭が割れるように痛くなってどうにもならない。
この時ばかりはたまらずにとりあえずお寺の中に休ませてもらうのであがったそうです。
師匠はその時簡単に祈祷しておさめたらしいですが、嘘のように消えた痛みにそんな即席に収められるものなのか?とおおいに驚いたそうです。
思うに簡単なお加持をしたのでしょう。
でもお参りするたびにその頭の痛みはだんだん頻繁に酷くなっていった。でもその都度拝んでもらうとおさまる。

「どうしてお参りするとこんなに頭が痛くなるんですか?」
「…あんたはね。なみの信仰ではおさまらない人なのかもしれないよ。」「!?」

何回か、そういうことがあって師匠はNさんに得度を進めたそうです。
師匠はNさんに強い霊的素質を見抜いていました。
案の定Nさんは「ええっ、お坊さんですか?私が?なぜです。絶対に嫌です!」と言ったらしい。

まあ考えれば普通の女性がそういうのも無理もない。
師匠もNさんがはじめからそういうだろうと思ったのか、その話はそれきりだったが、頭の痛みはますます酷く「きっと聖天様が痛くしているのだ。もう、大井の聖天さまなんか金輪際やめだ!」と言って彼女は行かなくなった。
そうしたらしまいに家にいても同じことになってきたそうです。
頭の痛みはますます酷くなる。医者に行っても皆目わからない。
どんな薬も効かない。
もうどうにもならない。
 
それで気の強いNさんは痛い頭を抱えて早朝のお寺に行き、「聖天様。何でなんですか!なんで私の頭を痛くする!」と大きな声で聖天様を罵ったそうです。
師匠もこれには驚いたようだったとNさんは語っていました。
でも孫悟空の頭の金輪のように締め付けられて、そののちとうとうNさんは一縷の望みで得度を決意したのでした。
それが得度受戒をしたら痛みは嘘のように消えた。
Nさんはこの時ハッキリと「不思議」ということを感じたそうです。
 
思うに戒というのはそれだけの力がある。
「戒体の発得」という。
その人の因縁を左右するんですね。
だからうちでは在家戒だけは皆さんに受けてもらっています。
「それはいらない。結構です」という人は仏縁うすいんだな・・・少なくともうちでは無理か…と思う。
決して無理強いはしませんがそれでその人の仏縁の程度はわかる。
そう思います。