金翅鳥院のブログ

天台寺門宗非法人の祈祷寺院です。

大乗仏教の職業観


時々思うのですが宗教は人助けということいいますね。
人助けだから無料が本当だとかも言う人いますよね。
私も昔はそう思っていた。

それで「ゆく末は専門の職業行者でなく休みの日に無料で祈願したいんです。」というとわが師は「あんたは余暇の片手間でこれをしようというのか?
祈願の中には人の生き死にを託するような祈願もあるんだよ。
それをそんな甘い仕事と思ってするならする資格はない。
もういっそやめた方がいい。」と言われました。

また、ある時困っているからと言ってここ一年ずっと無料で拝んであげている会社があるというと、「その会社は営業できていないの?」
「いいえ、会社はなんとか稼働しています。」
「じゃあもうけはあるのか?」
「まあ、…少しはあるのでしょう」
「それでいて一銭も払わないの・・?あんた、それは人を甘えさせるだけで過って業を作らせるようなものだ。そんなことしてはいけない。」と叱られました。
考えてみるとそういう人はお参りにすらも来ません。

そして「祈願を一年以上も無料でしてもらってやっと営業しているような会社ならその人自身には経営能力がないんだね。祈祷でもたすことよりダメなら見切って別なことをすべきだ。」ともいわれた。

爾来、祈祷はお金を頂かないでするものに非ずと思っている。

そうはいっても別な面で色々世話になったりすれば別ですが・・・・、人助けだからと縁もゆかりもないのにタダで祈ることは一切いたしません。
また状況を伺いこの方からはお金を頂くべきでないという方もいますが、はじめからただで祈祷してくれといって無料にした人はありません。

拙寺には実は助けるというよりワンチャンスで一回だけの「無料祈祷」はあります。ところがそうやっておくと逆にそれは頼まない。

粗末なことするのと思っているのかな。決してそんなことはしないのにね、
凄いのになると「無料祈祷みたいなのは嫌です。どうせそんなの利かないでしょ。上浴油の分を無料でしてほしい。」という注文付きもある。

「そういう人にはそれでいいじゃないの。なんで?人助けの仕事でしょ?」という方にハッキリ言います。
人助けの特別な仕事などは世の中に存在し無いのが本当です。
逆に観点を変えればすべての仕事が人助けです。
そうでなくてはならないのです。
全ては利潤追求ではなく、より良い仕事をして人や生き物に奉仕をするためにある。これが大乗仏教の言う仕事だと思う。
菩薩道とはそういうこと。
だから坊主にならなくても菩薩にはなれるのです。
逆に菩薩ではない坊主もいっぱいいる。
その仕事が人助けになるかならぬかは実は業種にあるのではなく在り方の問題です。在り方次第ですべてが人助けです。
それが大乗仏教ということです。

上座部のように出家して仕事や財産放棄しなくても仏道はそこにある。
そうでないなら大乗なんて絵空事です。
無料ということが確かに助かることもありますが、それは例外です。
それを本当の人助けだと考えるのは違うと思う。
全ての職業により良い仕事で奉仕する心が必要です。
青果店でも不動産業でもコンピュータ産業でもその仕事を通じ奉仕する。より善き仕事をするのが真の人助けです。
飲み屋だって坊さんと社会的価値はなにも変わりません。
場合によっては下らないおざなりのお説教なんかより一杯の酒と愚痴の聞き手こそが心を救ってくれることもあるものです。
こうした心で仕事をすることが一時的な無料奉仕などに比べてより確かで恒常的な人助けと私は思う。

そして無論そこに金銭の授受はあります。
それのどこが悪いのでしょう。
私は貨幣経済は人類に文化をもたらした素晴らしい制度だと思いますから、そのためにも金銭の授受は絶対不可欠と考えます。貨幣制度がなければ専門職は生れなかった。
そうなると文化も文明もない。
 
事実良い仕事をする人たちは下手な名前だけの宗教家なんかよりよほど世の中に奉仕しています。
自分の仕事の質で喜んでいただくのが真の社会奉仕です。
無料だからという理由で喜んでもらうなんてごくつまらないことでしかないと思うのです。
密教的に言えばこの世は曼荼羅世界、加持しあう世界。受け取るだけの存在なんて存在しない。受け取りたいなら自分も奉仕してこそ受け取れるのです。
だから誤解されようがなんだろうがハッキリ言っています。「私はタダというのはきらいです。」と。
ヒトデナシでしょう。心底冷たいんです。私って。
例えば、お金がないんですけど運勢見て欲しいなどと緊急性のないことをのっけから言う方にはお金作ってから来てくださいと言います。 
でもね、意地悪で言うのではない。

そういう方には禄に当たらぬ私のヘボ占いなんか聞くより、目的を決めて相談料一万円というお金を作る体験の方がはるかに多くの学びがありますから。
たかが一万円。されど一万円、…簡単じゃないです。