大泥棒の悪人カンダタは地獄に落ちるが、たまたま慈悲心を起こして助けてやった蜘蛛が垂らしてくれた糸を頼りに極楽に上がろうとする。
しかし後続の亡者が糸にすがり、糸が切れることを恐れたカンダタは「糸は自分のものだ。お前らは登るな!」と言ったとたん糸が切れてしまうというお話。
このカンダタを彫りたいという彫刻家とお話ししました。彼は日ごろ仏像の製作や修理をしている方です。
普通は仏師というべきですが敢て彫刻家というのはこの方が明確に仏教を信じているという立場ではないというので。彼を尊重する意味であえてこう呼ばせてもらいます。
そうですね。
自然をマルっと一つだととらえ、自然の象徴として山をこよなく愛する彼ならそう考えるのがよくわかるお話です。
大事なことは「自分だけ助かろうとするのはよくないこと」という道徳以上に、この御話は周囲と自分は本質的には同じものという秘密の深い教えが隠れている。
愚かな地獄の心を持ったまま極楽には上がれない。
同じように貪る餓鬼のような心のままでは豊かにはなれない。
阿修羅のような怒りの心を持ったままでは敵はなくならない。
怨敵を退散させるためには怨念や怒りの心を焼く。
苦境を脱するためには愚かなカンダタのような我他彼此の心を焼く。
そういうことですね。