昔あるところに、おまじないで病気を治す「まじない婆さん」がいました。
なんでも諸国遊行の偉いお坊様から授かったという呪文を唱えるのだとか。
あんまりよく病気が治るもので、近くの祈祷寺は信者を持って行かれて上がったり。
そこでくだんの祈祷寺の住職は、どんなことをやっているのか、婆さんの様子を伺いにいきました。
婆さんさんの住んでいる長屋の前には、ずらりと人が並んでいます。中にはよく知った顔もいました。
そこで住職は人気のない裏手に回って障子に指で穴を開け、中をそっと覗き込むと噂通りに婆さんが何やら呪文を唱えています。
耳を澄ましてよく聞くと「油桶底抜けた、アブラオケソコヌケタ」と繰り返してるではありませんか。
「なんだこの呪文は!?」
と、よくよく思案していると、これはもしかして大日如来のご真言「アビラウンケンソワカ」を誤って唱えているのだと気づきました。
次の日の夕方、住職は、人も引けたのを見計らい、まじない婆さんをたずね、よせばいいのに
「これ婆さんや、人を集めてご祈祷の真似事をしているが、あんたの唱えてるまじないは間違っておる。正しくはアビラウンケンソワカと言うのじゃ!」
とつげて長屋を立ち去ったのでした。
まじない婆さん、今までの呪文は間違っていたかと、それからは「アビラウンケンソワカ、アビラウンケンソワカ」と唱えるのですが、さっぱりまじないが効かなくなり、誰の病気も治らなくなってしまったということです。
これは、私がご祈祷の伝授を受けた某大僧正から伺ったお話です。
今日本で唱えられている真言は、元々はインドでとなえられていた言葉です。それが伝えられるうちになまって行ったようです。
しかし、インドでとなえられているように唱えないと、功徳がないのかと言うと、そういうことは全くありません。
真言は仏天が力をこめた言葉ですので、私たちが信じて唱えれば相応の功徳があるというものです。
梵字 オン