生命の基本機能の一つに「増殖する」を挙げる人は多いでしょう。その増殖には「次世代に自分の(遺伝)情報を伝える」という過程も含まれていると考えられます。増殖する時に、まず必要なのは膜を増やすことです。増やさずに分裂すれば、どんどん細胞が小さくなってしまうからです。 実験で使われたジャイアントベシクルは、細胞膜と同じようにリン脂質でできていました。放っておけば、ただの水中シャボン玉です。豊田さんらは、このベシクルに「餌」を与えてみることにしました。つまりリン脂質になる部品と、それを組み立ててくれる「触媒」(銅イオン)です。 実際の細胞では20種類くらいの「酵素」を使って、多くの細かい部品からリン脂質を組み立てています。しかし人為的にそれを再現するのは非常に難しいので、実験ではもっと単純化しました。 まず片方の足だけがちょっと短い「リン脂質の未完成品(前駆体)」を用意します。それだけだとベシクルの膜にはなりません。そこに足の部品を触媒の作用でカチャッとつけてやれば、ちゃんとしたリン脂質ができるようにするのです。つまり実際の細胞で行われている工程の、最終段階くらいを再現したわけです。 この前駆体と足の部品、そして触媒をジャイアントベシクルに振りかけてやったところ、ベシクルはそれらを取りこんで(食べて)、どんどん膜を増やしていきました。すると、ある段階でプクッとコブのようなものができました。そのコブは次第にくびれていき、最後にはちぎれました。つまり、もう一つのベシクルになったのです。 ジャイアントベシクルには、あらかじめ「ラムダファージ」と呼ばれるウイルスのDNAを入れてありました。入れてあるだけで、実際に遺伝情報の媒体としては機能していません。ただコブになって分かれていった子供ベシクルにも、ちゃんとそのDNAは分配されていたことがわかりました。
この実験そのものは実に興味深いが、これにまた、人間の愚かしい欲望が絡むとどんなに恐ろしいことをしでかすかと不安になります。
欲自体は私たち生き物になくてはならないものですが暴走すればいかなる悪魔も驚くような最大の悪魔になる。
智慧ある人よ。その悪しきささやきに耳をかしてはならない。
アニメ版ゴジラの第二話、生きもののような増殖金属ナノメタルの登場する「決戦増殖都市」を思い起こす