佐古先生が毎日聖天さんの浴油を練行していた時だという。
やおら尊天の像がぴょんと多羅の中で飛び上がったという。さすがに目の錯覚かと思ったそうだが・・・
でも古書には「嬉しいと尊天が舞妓する」とあるらしい。
昔、比叡山のある高徳の阿闍梨のもとに断った祈願ながらそれが叶ったと御礼に来られた信者があったという。
・・・・祈願は断ったのに不思議と叶ったのだ。
阿闍梨は思うところあり「おのれ‼ さてはわしが断っているのに聖天めが勝手に働きおって」と怒ってやおら天尊の尊像を厨子から出してわしづかみにするや、谷に放り投げた。
三塔十六谷というほど谷だらけの比叡山だ。
皆々、聖天尊の怖いことを十分に知っているから「・・・これは阿闍梨様は大変なことをなさった‼」と嘆き騒いだり、驚き恐れたりした。
中には思い余って谷に入って尊像を探そうという者もいたことだろう。
だが当の阿闍梨は「騒ぐでない。もう、自力で戻っておるわ。」と言われたそうだ。
行って厨子を開けるともう尊天は戻っていたという。
これは願海さんの「歓喜天叢書」にある話だ。
尊天はそういう不思議はあるものと思う。
佐古先生の浴油は開白あって結願なしの「長日浴油」だそうだ。
だが長日と言ってもあまり忙しいとできないこともありますよ・・・と断っておくらしい。