K師の密教研究会の後、面白い質問が来た。ある弟子から台密に「青頸観音供」ってあるでしょうかとの質問。
「百二十尊供のなかにはたしかあったね。」
でも行林抄にも阿娑縛抄にもない。
青頸観音と言えば歴史文献学的にはシヴァが乳海攪拌の時ヴァースキ竜王が誤って吐いた毒が海に流れたのを全部飲んで世界を救ったというお話から来ているそうな。
でもって喉が青いんですね。毒のせいで。
でももちろんこれはヒンドゥー神話であって仏教神話じゃない。
そこのところ自分も興味があって調べてみました。
まず、密教的には「青頸観自在菩薩心陀羅尼経」というのがあって、毘沙門天の宮殿で世尊がシヴァならぬ那羅延天のために説いたという。
那羅延天はヒンドゥー三大神のひとり。
那羅延天というよりビシュヌという方が聞き覚えがあるでしょう。
彼がために観世音の真言を解いた。一切の怖畏や災難を除き無上菩提に至るという真言。
これがために青頸観音は獅子と猪の顔を持つ。
つまり那羅延天は真言を唱えてそのまま姿のまま観音になったのでしょう。
獅子の顔はナラシンハ、イノシシの顔はヴァラーハ。ともにビシュヌの化身です。
四臂で杖と螺貝と蓮華そしてビシュヌの持ち物の輪宝(スダルシャナ)を持っています。
だから密教的にはビシュヌが近いんでです。蓮華を持つことで実はこの尊は観音だと語っているのだと思う。
だから密教ではシヴァよりもビシュヌに近い。
さらに驚くのはその根本真言はいわゆる、あの有名な大悲心陀羅尼なんですね。
大悲心陀羅尼って千手観音のものだと思うだろうけど本来は青頸観音のものです。
千手の大呪がよく似ていたのでだんだん同化していったんでしょうか。
陀羅尼経の説では、護身法してただひたすら、大悲心陀羅尼を100~1000遍唱える方法が紹介してある。それでも供養法になります。
もう一つは「金剛頂瑜伽青頸大悲王念誦儀軌」つまり密教修法のテクストです。
だから本来はこの観音は金剛界立で修するべき法なんでしょう。
ちなみにチベットではこの青頸観音は七頭の猪にひかせた車にのります。摩利支天と区別つきません。
なんだか調べてるうちにとっても魅力的な観音様なんだと思うようになりました。
思うに「観音懺法」の出展である「消伏毒害陀羅尼経」も本来この観音が淵源なのではと思ってしまいました。
もう一つこの青頸観音に近いのが青面金剛。こちらこそルーツは乳海攪拌の毒のんだシヴァだと思うけど、
あるいはお猿さんとの関りからハヌマーンと見てもいいのかも。