馬頭観音様は観音様の変わり種で、諸観音を代表する六観音の内では畜生道の救済者とされます。観音様には珍しい忿怒のお姿ですが、これは普通の柔和なお姿の観音様より一層慈悲深いお姿の表現とされます。もともとは動物救済に限られた観音様というわけではありません。密教の御経では人間社会の息災・増益・敬愛・調伏・鈎召と世間のあらゆる御利益に期待が寄せられる最も現世利益に強い観音様です。
その淵源はインドではビシュヌという神様の化身として知られています。
ある日、ビシュヌ神が居眠りしていたところ、口からバラモン教の聖典ヴェーダの経文が漏れてしまいました。これを見ていた阿修羅が其の経文を持って逃げたのです。
ビシュヌは自らの化身として馬の顔をした俊足の馬頭尊、ハヤグリーヴァを生み出し、これに追いかけさせました。ハヤグリーヴァはたちまち阿修羅に追いつき、経文を取り返したと言います。
此のハヤグリーヴァがそのまま。仏教の観音様として拝まれたのが馬頭観音様です。
仏教というのは世にも稀な宗教で異教の神様を否定しないで自らの宗教の中に位置を作りとらえなおすということをしてきました。馬頭観音も元はそういう異教から来た御仏です。他にも梵天、帝釈天、弁才天、歓喜天等という天部の神様は其の侭取り入れられています。ハヤグリーヴァを生み出したビシュヌ自身もまた毘紐天という名で知られています。
インドのハヤグリーヴァであった馬頭様はインド教では菩薩でなく神様でした。しかし七世紀に密教が成立してよりハヤグリーヴァは観音の一尊とされ、仏教でもおおいに信仰を集めました。馬頭観音様は諸観音の内でもとりわけ十一面様と近しい関係にあります。私の持つ次第では十一面様の護摩をたくと一緒に拝むことになっています。
馬頭観音は大力持明王とも言い、極めて大力の明王でしかもその御利益は駿馬の様に早いことが特徴です。十一面様の良き無二のパートナーと言えましょう。十一面観音は馬頭観音曼荼羅では西の馬頭尊と向き合い東を守ります。
私の師匠も比較的よく馬頭観音を拝みましたが「馬頭様を拝むと最初に八大竜王が来る」といっていたそうな。八大竜王は南の守り。
他にも不空羂索観音もまた馬頭観音の北を守る尊とされていて縁の深い観音です。