若いころ、師匠の寺である人からいわれのない陰口を言われ怒髪天をつきどうしてくれようか!面と向かって罵倒してくれようか‼と怒っていたら・・・こんな昔話を姉弟子がしてくれた思い出がある。
昔のあるお坊さんのお話。
ある大店の娘が若い手代とひそかに恋仲になり、身ごもってしまった。
黙っていてもおなかはどんどん大きくなる。
両親はおおいに驚き「相手は誰だ!」と詰め寄る。
本当のことを言えば手代は追い出されてしまうと考えて、苦し紛れに娘は檀那寺の住職であった坊さんの名を口にした。
「おのれ、生臭坊主!僧侶の身でうちの大事な娘をはらますとは‼」
やがて赤ん坊が生まれたら店の主人は寺にやってきて「おいっ!この生臭クソ坊主、お前が生ませた子どもだ!お前が育てるがいい!」と罵り、赤ん坊を寺に放り込んで帰っていった。
住職は別段何にも言わず、おいていかれた赤ん坊に米のとぎ汁などを呑ませて年ごろに育てた。
その有様を知った娘は苦し紛れに言ったこととはいえ、赤ん坊は恋しいやら、住職に済まないやらで、もう身を揉むほど苦しみ、とうとう真実を両親に打ち明けたのだった。
真実を知った両親は手代と娘の中を許して店の後をとらせようと考えを変え、果ては寺にきてコメツキバッタのように何度も平身低頭して謝り、「まことに勝手な限りだが、その子はうちの跡取りの子になります。どうか赤ん坊をお返しいただけまいか」と懇願した。
住職は何も言わずに奥座敷から感冒を赤ん坊を抱いてきて「ほい」と娘に渡したという。
この話をして姉弟子は本当のことは騒がなくてもいずれはわかるものなのだと諭してくれた。
有難いことだった。
私はこの話で救われた。
やがてその噓つきは寺で騒動を起こして去って行った。