金翅鳥院のブログ

天台寺門宗非法人の祈祷寺院です。

十六善神と理趣分祈祷

拙寺で普段一番良く拝むのが理趣分の御祈祷です。
これは私の師匠がそうだったので私もそうするようになりました。
理趣分は大般若経600巻のエッセンスと云われ、密教ナイズされて後の「般若理趣経」になる御経です。
教理的に研究されていたのはむしろ大品般若経のほうでしたが、信仰の上では大般若経がよく読まれました。
読むといっても大般若経は600巻もあるのでいわゆる転読というやつで、坊さんが大勢でバラバラめくって読んだことにするのですが、これは自分が読むのではなく本尊に一瞬にして読んでもらう意味だと思います。
もともとは転読とは読経するこのと同義で略した読みの意味ではありません。いわゆる真読と同じ意味なのです。
この時の導師作法が理趣分一巻を真読で読むということです。
大般若経の第五百七十八番目です。
ひとつ前の五百七十七は能断金剛分でこれも知られた「金剛般若経」です。
ちなみに護国三部経に上げられる有名な「仁王般若経」は全然系統が違うので大般若経には入っていません。
いずれにしてもこの理趣分と云うのは大般若経の白眉です。
内容的にも印相を説かないだけで密教と云っても良い内容です。
実際これに印相をつけたものが「陀羅尼集経」でここが密教立ての読誦作法の典拠になっています。
この理趣分を読むには十六善神曼荼羅を掛けます。
釈迦、普賢、文殊の三尊に法湧、常啼の二菩薩加えて深沙大王、玄奘三蔵、俱毘羅女などがにぎやかに描かれています。十六善神は中尊を取り囲んで左上からぐるっと取り巻くとされますが、どうも十六善神な名前と尊像が一致しません。
昔からいろいろ言われ、数の上から十二神将と四天王を合わせたものという説もありますが、これはメンバーがかぶるのでありえません。
十六善神はとても威力のある神で、「陀羅尼集経」によればその名を呼ぶだけでも降臨するといいます。
昔ある行者さんから直接聞いた話ではこの御経をぞんざいに放り投げたところ、そっちの方に首が曲がったまま数日間しばらく治らなかったという話を聞かされたことがあります。
私の小僧時代にも姉弟子が、読み方を授かっていないのでこの御経は経帙を開けても触ってもいけないといわれていると言っていました。
理趣分はあらゆる祈願に相応する万能の祈祷経典ですが、古来「早めの祈祷」とも云われ、死にきれずに苦しんでいる病者が安楽に逝けるということでもう一つ別な功徳が知られています。
勿論別に早く死ぬようにと祈るのではなく、業が亡くなるので無駄な苦しみを受けずにすっと逝くのだといいます。
寿命自体はそういう人はもう尽きているのですが、業解消のため、ことさらに命終が迎えられずそういう苦しいことになるようです。
実際問題として往生際が悪いということです。
それがすっと逝く。
それは私も何回となくやってそのつど経験しました。
当の私の師匠なんかも70才でやや早いけど夜寝てすっと逝ってしまった。
師匠の師匠はこの法を知りませんでした。
行者はとかく無理な祈願もするので死に際は良くないものです。かなり苦しみましたが師匠が病床に行って理趣分読んだらこれもすぐに往生されたと聞いています。
厳格なカソリックの人や人命絶対主義の方からは怒られそうですが私は安楽死も死刑も戦闘行動も絶対的な否定はしません。
あいすみませんね。
カソリックのような宗教的なものは別にしてこういったものを断固否定する人権派などと云う人達の中にはそれでいて堕胎の問題になるとトーンダウンして、甚だしくは仏教の「水子供養」などは「女性差別」だとか、金をとるための「霊感商法だ」とかいう人さえもいますね。
赤ちゃんは腹から出ないと人じゃないんだね。出損なって殺されたのは人じゃなく単なる肉塊でしょうか???
要するに唯物論と云うよりもさらに目に見えている人間だけに人権があるのですかね。わかりません。

・・・・かと云って絶対に堕胎はどんな場合でもダメだとまでは私には言えません。
私は究極的には仏教に絶対悪はないと教えられました。
そして私もそう思っています。
堕胎も場合に寄るでしょう。母体が危ないとか、生まれてきても一人では何もできない重度の障害児だとか・・・。
でも中には車買い換えたいので堕胎なんてとんでもないのもいますね。
それで「最近調子悪いのは水子かしら?」ときたもんだ。
水子じゃなくアンタのほとんど死にかけてるお粗末な良心が祟るのだ。」と思うんですけど。
マア、いってみればケースバイケースで堕胎もいたし方ないように、安楽死や死刑や武力衝突も致し方ないものもある・・・と思いますけど。

言っておきますが理趣分はモルヒネの大量投与なんかと違い、寿命がある人の場合は助かる方向に行くのでご安心ください。
我が母からも「いざとなったら延命治療などはするな。理趣分読んで、自分をあの世に送るように」と言われています。
私もそれが寝たままジワジワ死んでいくだけの延命治療なんかよりずっと親孝行と思っています。
私の時もだれかに予約しておかなきゃ・・・(笑)。
まあこんなに凄いお経だけど理趣分自体は顕教経典です。
当院では在家の行者には、最終的にはこの理趣分の作法を授けることにしています。