金翅鳥院のブログ

天台寺門宗非法人の祈祷寺院です。

金でしてはいけない付き合い


N先生は武術以外にこの黄老師由来の手わざの治療を得意としました。
私もよくやっていただきました。

でも御礼はいくらとはおっしゃらない。そんなことが二度三度あったからそれである日、これくらいは最低でもと思う金額でお礼を持っていくと・・・

「あんたから金はとれない。人間は金でしちゃいけない付き合いもある。だからその金は引っ込めてくれ。」と言われた。
私は常々占術や祈願などでお世話したことはありましたが、弟子は師匠のためにもてるもので尽力するのは至極当然のことです。師匠から報酬は
いただくものではないと思っていたからこれにはおどろいた。            
あるいは信者さんの内にも治療をしてもらいたいという人もいて、請われれば紹介していたからも知れません。
でも、いつも「真に申し訳ないですが、先生こちらの方をお頼みいたします。」といって頼んでいたのでそんなことを義理に思われるわけはない。頼んでいるのはこちらだと思っていました。

先生は金融業をしておられましたから決して金に甘い人ではない。
だからこそお金と人のかかわりをよく熟知しておられたのでしょうか。
先生のこの言葉は私には響きました。「金じゃねえんだ。人間は。」といわれたそのひとこと。

「そうか、人間は金ではない、本当の付き合い、そういう付き合いをしておかなきゃダメなんだな。」

これはN先生からいただいた大きな教えでした。
先生からいただいた恩恵はそれだけじゃない。
厳しい先生ではありましたが治療していただいたり、教えて頂いた武術の技はもちろんのこと。
そういう時はN先生はいつも私のために晩の食事を用意して茅ケ崎から鎌倉まで車で送ってくださったり。全くどちらが師匠だかわからない。
人が来ると私のことを「これはうちの軍師だ。」などと冗談言って紹介された。
それ以前から板橋の道場に通っていた学生時代、帰りは皆全員におそばを食べさせて下さったりもしました。実にありがたいことです。

それでは悪いので遠慮していかないでいると「そろそろやっておかないとダメだぞ。」と言って電話が来る。
私もだからといってまるきり何もしないというわけにはいかないので毎回先生の好きなお酒を選んで2本持っていきました。
お酒は受け取ってくださったからです。
「日本酒というのはな、他人様に持っていくときは2本でにして持っていくものだ。」と教えてくれたのも先生です。
ちなみに先生は酒がお好きで、結構飲まれましたが85歳まで生きられた。自分でよく治療しながら飲まれた由です。

そもそも先生のこうした面倒見の良さはは若いころからだったらしい。

なんと一時は「いそうろう」を6人も面倒見ていたそうです。あまりいつまでも働きもせずゴロゴロしてるので怒鳴りつけた。
そうしたら一晩で皆いなくなった。
「あいつら行くところがないなどと言っていたからおいてやったんだが、本当は行くとこあったんだ!呆れたやつらだ。」と述懐されていました。
 
 しかしながら、この先生の無類の優しさが仇となり皆、甘えすぎ、増長する人が多くなったので晩年の先生は極端に猜疑心が強く人を疑う性格になってしまいました。実は私もそれで離れざるを得なくなった。

残念なことです。