映画「信虎」をみてきました。
信虎とは武田信玄の父のこと。
名門甲州源氏の流れ、武田氏の大名。
暴君であってそのため、謀略で追放され今川家に預けられたとされている。
NHKの大河ドラマ「武田信玄」では息子に無理解でなにかとつらく当たる無茶な父親として演出されていた。
だが、事実上、国衆の反乱を繰り返す甲斐の国を統一し、宿敵の駿河の今川とも和睦を導き、甲府という戦国時代に稀なる都市を開き、躑躅崎城を作ったのも他でもない偉大な甲斐の国の父ともいうべき武田信虎なのだ。
戦国時代第一の雄である武田信玄はこの地盤のもとにはじめて出現したと言っていい。
その後、彼は今川を出て高野山や奈良や京に遊び、足利将軍家のおそば衆となった。
将軍のため軍を率いて戦いもしたらしい。
将軍を助けようと反信長の兵士も集めた。
この映画は武田信玄亡き後、存亡の危機に立つ武田家を心配して京から志摩水軍や甲賀衆を味方にして故郷にもどってくる信虎の話。
あと目を継いだ勝頼とのやり取りで、そんな心構えでいたらやがては織田に責められて武田氏は滅ぶだろうと未来予測し、勝頼に意見する信虎。
かっての名将の面目躍如である。
だが、勝頼をおだてて取り入る老臣たちからは冷遇され、邪魔者とうとまれる信虎。「再び国主に据えろ。」と言ってバカにさえされる。
ただ、理解者は息子で信玄の弟、武田逍遥軒のみだ。
劇中注目するのは信虎が日蓮宗に深く帰依し、手首に北斗七星の形にほくろが並ぶことから、僧侶に妙見の申し子と言われ妙見信仰に心を寄せる。
信虎が妙見堂に参篭して自然に会得した妙見菩薩の秘術を使う場面が何度か出てくる。
信虎がそんなことをしたかどうかわからないがたしかに日蓮宗びいきだったようだ。
この映画は珍しく信虎をいにしえの名将らしく描いている。この信虎は慈悲もそれなりに備えており冷血漢ではない。むろん戦国武将らしい厳しさはにじむが信仰家でもある。
人間最後になすべきことがあるというメッセージをこの映画はもたらしてくれる。
家臣たちに惜しまれながら世を去る信虎。
「あんなに暴君だった人が幸せな一生を送った」という言葉も出てくるが、果たして暴君だったというのはよくわからないらしい。
追放した信玄もかなり冷血漢で実の長男を切腹させたくらいだ。
まあ、そういう時代なのかもしれない。
実際の信虎は上洛半ばで病気になった信玄の見舞いにと陣中に医者を送っている。
80歳近い寺田農さんが信虎を好演している。
上杉謙信役にはかって角川映画「天と地と」で同じ役を務めた榎本孝明さんが勤めていてなんかなつかしい。一瞬、続編のような錯覚もする。
日本の戦国史好きにはお勧めの映画だ。